iPhone XSとiPhone XRの販売戦略。

iPhone XSが発表されました。並びにiPhone XRも発表されました。

11年間も同じようにiPhoneを発表しているので今更驚く事もありませんが、フラグシップモデル以外のiPhoneから戦略が色々と読み取れるのが面白いです。

実は、iPodも11年連続して発表されているんですねー。もはやiPhoneもフランチャイズ化していますね。

iPhone 5Cの販売戦略的教訓

2013年当時は『iPhoneが廉価版を出さないと安価なAndroidスマートフォンに対抗できず、経営破綻する』とまで言われていました。恐らく株価が最高位に達して、高品位で高価なスマートフォンが頭打ちしそうで、次なる一手をアナリストが苦言していたのでしょう。
・・・ところが。iPhone 5Cのイベントでは、廉価版というイメージはありませんでした。


『Appleはカッコいい』がメッセージでした。
・我々は安価なiPhoneは作らないよ
・我々はスマートフォンを売っているのではなく、エクスペリエンスを提供している
・新しいスマートフォンは安くないけれど、カッコいいよ
と言われているようでした。
とにかくiPhoneを所有する事の喜びを前面に出したプロモーションだったように記憶しています。そのためのハードウェアとソフトウェアの融合など、今までAppleが大事にしていた事が頭をよぎりました。特に、iPhone 5Cに関して言えば、プラスチックである事を引け目に感じず、むしろメリットを表に出してその良さをアピールしていました。
今思えばiPhone 5Cはその前年モデルのiPhone 5相当の性能だったわけですが、あれ以来iPhone 6CやiPhone 7Cが出ていない事から、それ程たくさん売れた訳ではないのでしょう。(AppleはiPhoneの販売数は公表しますが、その内訳は教えてくれません)
結論として、Appleは廉価版は発売しない、そしてAppleの顧客は安価のスマートフォンを買わない、という図式ができたようです。

iPhone Xの販売戦略的教訓

しかし去年、iPhone XはiPhone 5Cとは真逆のプレゼンーションでした。当時はiPhone 7の後継機でiPhone 7Sとかを想像していましたが、その系列から逸脱したモデル発表はiPhone 5Cのような前年クラスのモデルではなく、先進的なiPhone Xでした。10万円クラスのスマートフォンです。
前年のiPhone 7の正当な系列であるiPhone 8はあらゆる面で後継機として相応しく、CPUも向上、タッチIDやカメラも良くなっており、ソフトウェアも良くなっていました。それでも目を奪われたのはこの新しいiPhoneの系列でした。
今年のiPhone XS発表で、最も売り上げが高かったiPhoneはiPhone XSだったとTim Cook CEOが言っていました。実は、Appleの売り上げは上がっていましたが販売台数はあまり変わっていませんので、高機能高価格のiPhone Xが売り上げに貢献しているのは間違いありません。
結論として、Appleにとっての理想的な顧客は、iPhoneの価格は大きな問題ではない、という図式ができたかもしれません。

iPhone XRの販売戦略

そして今年なiPhone XR。私はレンズ設計を生業としていますが、製品の作製もある程度知見があり、実際に製品のコンセプトを考えてから製品が販売されるまでの時間は2〜3年と長い事を知っています。よって販売戦略も数年前に練られる訳ですが、iPhone XRの販売戦略がiPhone 5Cの売り上げや利益の結果を考慮したモデルである事が垣間見えるようです。
まず、iPhone XRはiPhone 5Cと似てカラフルですが、安価をイメージさせるプラスチック製ではなく、高品質なアルミ製です。iPhone XSのステンレススチール程ではなく、プラスチックの間くらいです。ケースに入れるとアルミ部分は隠れるかもしれませんが、裏面がガラスで高級感で出ていると思います。
前面は最高級機種iPhone XSと同じ『ノッチ』があり、意匠的に似ています。それだけで『フラグシップ機のiPhone XSとの比較対象』となり得るのです。
また、スクリーンサイズですが、実はiPhone XRはiPhone XSよりも大きいのです。今はピンと来ないかもしれませんが、私が想像するに、これは2020年頃に効いてくるのではないかと思います。
iPhone 5CはiPhone 6の時代になった時、サイズが小さく感じてしまうサイズでした。スクリーンサイズが相対的に小さく外装も高級感が低ければ長期製品としては販売できません。
対して、iPhone XRはそれを見越して、例えばiPhone XT(XSの後継機の仮名)が発売された時にスクリーンが少し大きくなっていても、iPhone XRが最安価なモデルとして見劣りしません。2〜3年後はiPhone 7と8の『ボタン有り』の旧系列がなくなり、iPhone XRが最安価モデルとなった時でもCPU的にもスクリーン的にもカメラ的にも見劣りせず、その時代のiOS14やiOS15も問題なく動作するハズです。
iPhone XRはiPhone XSと同じA12プロセッサを有し、バッテリーに至ってはiPhone XS Maxよりも長持ちします。広角カメラも同じですし、FaceID用のカメラも同じです。『カメラ』というのはレンズとセンサーを含みます。とにかく、数年後のAndroid端末の安価製品でもとても太刀打ちできる性能ではありません。
iPhone XRがiPhone XSに備わっていないものと言えば、
・OLEDではなくLCDのスクリーン
・ステンレス製ではなくアルミ製の筐体
・3D Touch非搭載
くらいです。
Appleのアルミはプレミアムな材質ですし、AppleのLCDスクリーンは業界最高クラスです。人によっては3D Touchはいらないかもしれません。こうやって見ると、スクリーンを覗き新しいフラグシップ機でも良かったくらいの性能です。
2〜3年後、その頃に2年契約かそれより長い期間からの買い替えを検討している方には、iPhone XRは性能に置いてまだまだ対象の範囲内にある訳です。この時のポイントは、iPhone 6SやiPhone 7からiPhoneへの買い替えだけではなく、Androidからの買い替えを検討している人も対象に入ります。
iPhone XRはiPhone 5Cから学んだ、数年後を見越した性能を持つ、販売戦略的にとても重要な製品である事がわかります。フラグシップ機は毎年変えられます。最安価モデル(となるであろう)機種はフラグシップ機よりも熟慮が必要です。
そういう意味で、やはり残念ですが、iPhone SEに相当するiPhoneが無くなったのは必然かもしれません。
iPhone XSの販売戦略
iPhone XRが良すぎるので、フラグシップ機であるiPhone XSを喰ってしまう恐れがあるとかないとか。
iPhone XRがそんなに良いなら(64GBが8.5万円)、プラス3万円のiPhone XSや(64GBが11.3万円)、ましてやプラス4万円(64GBが12.5万円)のiPhone XS Maxなんか誰が買うのかと。しかしこれもiPhone Xの販売結果が色々と教えてくれる訳です。
去年のiPhone 8も素晴らしいスマートフォンでした。iPhone Xと同じA11プロセッサを有し、LCDスクリーンはiPhone XRと同じく高品質。筐体はアルミで裏面はガラス。しかも(賛否は別れるものの)3D Touch付き。慣れ親しんだTouch ID付きの指紋認証モデルであり、人によってはまだ得体の知れないFace IDよりもよりも安心して使えるモデルです。また、当時はPlusサイズのものはiPhone 8しかありませんでした。
それでも売り上げ結果からわかるように、Appleの理想顧客はフラグシップ機のiPhone Xを選びました。この中には毎年新しいiPhoneに買い替え方が多く含まれいています。価格よりも最高性能を手に入れる事、あるいはステータスのために『最新だったiPhone』から最新のiPhoneに買い替える訳です。
もちろん、iPhone Xは本当に新しいモデルだったので、その目新しさも販売を助けたのは容易に想像できます。ハードウェアのみならずソフトウェアも新しかったです。ひょっとしたら去年はiPhoneを買うのを見送るつもりだった人がiPhone Xを買ったかもしれません。もしくは、ひょっとしたら去年はiPhone 8を買うつもりの方が少し上を見てiPhone Xを買ったかもしれません。
その点ではiPhone XSは目新しさについて不利で、iPhone Xよりも性能が高く、カメラも良く、新しいゴールド色があっても『Sモデルだから』と、本来のターゲットが去年のiPhone Xに既に引っ張られている可能性もあります。つまり、iPhone Xからの買い替えはあまり期待できなく、加えて今年は『iPhone X vs. iPhone 8』よりも『iPhone XS vs. iPhone XR』図式もある事から、iPhone XSはiPhone X程の伸びはないかもしれません。
そこで売り上げに効いてくるのはiPhone XS Maxだと予想しています。そして何気にiPhone XRもiPhone X発売時のiPhone 8よりも価格は高いので、その二点を考えるとこれも売り上げが上がる要因となるでしょう。
まとめると、iPhone XRがフラグシップ機のiPhone XSを喰う分は、その価格差で補填可能です。

iPhoneの近年の販売戦略

2013年はiPhone 5Cで単なる安価なiPhoneを作らないと宣言し、その失敗からそのスタンスが証明されました。
2017年はiPhone Xで更なる高価格なiPhoneの販売にチャレンジし、成功しました。
そして2018年の今年は、更に高価格なiPhone XSと、性能的に僅差であり長期販売を見据えたiPhone XR。
iPhoneはフランチャイズ機です。そこには価値があり、販売戦略もそれをベースに立てられる訳です。人によってiPhoneを買い替える理由は様々です。毎年のiPhoneを買う人もいれば、2年毎にiPhoneを買う人もおり、スクリーンが割れた人が新しいiPhoneを買ったり、バッテリーの持ちが悪くなった人がiPhoneを買い、アプリの立ち上げを遅くなったと感じる人がiPhoneを事もあります。
それらの多くの方がまたiPhoneを買う訳です。そういう意味ではAppleのiPhoneのプレゼンテーションはデバイスを売るのが目的ではなく、ラインナップを提示して誘導するのが目的であるようでした。
iPhoneの販売戦略を紐解いたところで、改めてiPhone XSとiPhone XRの価格差が単純は機種性能によるものではないのがわかりますね。

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