Appleは写真の事を真剣に考えているのは明白です。『Shot on iPhone』キャンペーン然り、そしてPortrait Mode然り。
どこまで意識しているかはわかりませんが、少なくともFlickrなどではiPhoneで撮られた写真が最も多いそうです。Instagramなどでもそうだと思います。
例えばMacはパソコンで先進的と言えるでしょう。iPadはタブレットとして先進的と言えるでしょう。Apple Watchはスマートウォッチとして先進的と言えるでしょう。Apple TV、Apple Musicも先進的です。
そしてiPhoneはスマートフォンで先進的と言えるのは間違いないです。
しかし、Appleがカメラとして先進的と言わしめるには、Appleと他のスマートフォンメーカーとの比較のみならず、カメラメーカーであるキヤノン、ニコン、ソニー、富士フィルム、ライカなどと比較する事になります。
iPhone XS、XS Max、XR共に、iPhone Xとスペックの差が僅差に見えます。一年のアップグレードに対してはこんなもんだと思いますスペックでは表せない違いがあるのも事実です。見た目が大きく変わらない、防滴機能は少し向上しています。
『写真機能』について
しかし、私の印象ではiPhone XS(とXS MaxとXR)はiPhone Xよりも大きく向上している点が一つあると思います。それはカメラ、と言うより『写真機能』と言うべきでしょうか。残念ながらスペックには現れにくい項目です。
ましてや普通の人は一年でアップグレードはしなく2年に一度のアップグレードが多いので、iPhone 7やiPhone 6SからiPhone XSに買い換える方が多いわけです。更に2年以上のアップグレードサイクルの方々もいます。そう言った方々には大きなカメラアップグレードとなるでしょう。
そしてiPhone Xを持っている人からしてみたら、最も大きな性能向上はこの『写真機能』だと思います。もちろん、ビジネスマンで年間たくさんの国に行くような方はDual SIMが良いと感じるでしょうし、ゴールドモデルのためだけにiPhone XSを購入する人もいるでしょう。でも多くの方には、カメラ機能が唯一の選択になる可能性が高いと思うのです。
Computational PhotographyとNeural Engine
Computational Photographyとはパソコンなどで計算した写真表現の事です。複数の露出を重ねて処理するHDR処理もその一つですし、擬似的にボケを再現するのもこの類です。
これらの計算に、新しいNeural EngineやA12のチップが効いているのは間違いありません。とは言え、私はNeural Engineはあまり理解していません。CPUがどんなものかはわかっているつもりです。現代のGPUがCPUよりも計算が早い類のものがあり、NVIDIAが力を入れている事もわかっています。
これらのハード的な性能向上が、HDRの質を上げているのでしょう。概念は単純で、HDRは異なる露出を多重化して、暗目の写真で太陽などの明るい部分を取り、明る目の写真で影などの暗い部分を取って合成する事によって一回で撮ったのより全体的に適正露出となるような写真の事です。
非現実的な露出と思う無かれ、実は目で見た景色はこれと似た露出です。フィルムにしろセンサーにしろ感度の大部分は線形です。しかし人間の目は対数露出なので、これはすなわち目は瞬時に一つの景色の中で暗い部分や明るい部分の両方をセンサーよりも適切に判別する事が出来るのです。HDRとは目で見た景色と近いものが撮れるとも言えるのです。
このHDRの塩梅がAppleは年々うまくなっており、以前は通常の露出とHDRの両方の写真を残し通常の露出がデフォルトだったのが現在はHDRがデフォルトになったくらいです。
そんなわけでSmart HDRを駆使した逆光のポートレイトなどが早く生で見たいです。私の世代の人は『逆光だとうまく撮れないよ』という言葉を何度も言った事があるのですが、このiPhoneから写真を撮る人はそんな言葉が何を意味するのかわからないでしょう。
新しいセンサーと新しい広角レンズ
AppleのHP上では『デュアル12MPバックカメラ』としか説明がなく、広角レンズがƒ/1.8で望遠レンズがƒ/2.4くらい情報しかありません。カメラが二つあるので、広角レンズとセンサー、そして望遠レンズとセンサーがあります。センサーは二つです。
今回のiPhone XSの広角レンズ側のカメラは新しくなっています。
Flickr上でiPhone Xの写真とiPhone XSの写真の焦点距離のデータを見ると、iPhone Xは4.0mm、iPhone XSは4.25mmです。
焦点距離はとはレンズの主点から像面までの距離を指します。以下が(おそらく)iPhone 7のレンズです。
このレンズの場合、第一レンズの前面が絞りとなっているため、入射瞳も第一レンズ上にあります。そして焦点距離は入射瞳位置から像面(センサー)までなので、このレンズの全長が焦点距離となります。
つまり、iPhone XSの焦点距離はiPhone Xの焦点距離よりも0.25mm長いため、おそらくレンズも0.25mm長いです。0.25mmと馬鹿にする無かれ、iPhone XSをiPhone Xと同じ薄さにするために内部をどれだけ工夫しなければいけなかったか、想像に難しくありません。
更に。Flickr上のiPhone Xの写真とiPhone XSの写真ですが、交互に見るとiPhone XSの方が『広く』見えませんか?
広く見えるという事は画角が広いという事です。焦点距離が短い程画角は広いのですが、iPhone Xは4.0mm、iPhone XSは4.25mmです。実焦点距離が長いのに画角が広いという事は、
センサー対角の半値 = 焦点距離 × tan(半画角)
の関係式からわかるように、iPhone XSの方が大きいセンサーを搭載しているという事になります。
iPhone Xのカメラのフルサイズ換算(フィルムサイズの規格)すると28mmだそうです。対角画角は75度です。
でもiPhone XSの画角はより広いので、フルサイズ換算26mmの対角画角79.5度と見込んでいます。
これを上記の数式に入れると、双方のセンサー対角がわかり、面積もわかります。
iPhone X:半画角=37.5度で焦点距離=4.0mmならばセンサー対角半値 が3.05mm(全値6.1mm)、4:3のセンサーだとして面積は18mm^2
iPhone XS:半画角=39.75度で焦点距離=4.25mmならばセンサー対角半値 が3.55mm(全値7.1mm)、4:3のセンサーだとして面積は24mm^2
つまりiPhone XSのセンサーがiPhone Xよりも1.33倍、33%大きいのです。レンズが長くなっていおり、更にセンサーサイズが大きくなっているのに、iPhoneの筐体がほぼ変わらないなんて凄い技術力です。
センサーが大きくて解像度が同じ12MPならばピクセルが大きくなっており、高感度特性が上がり、暗所の撮影が良くなります。レンズ設計者としては、無理に高いピクセルを追っていない所に好感が持てます。
更に、この広角カメラ、iPhone XRにも付いているのだからびっくりです。iPhone XRが単純に廉価版と片付けられない理由の一つです。
私みたいなレンズバカ、カメラバカが世の中に何人いるのかわかりませんが、この人種はiPhone XSの広角レンズにワクワクしています。
https://petapixel.com/2018/09/17/exclusive-iphone-xs-photos-our-first-look-at-real-world-performance/