今回の学会でおもしろい話しを聞いたのでちょっとアップ。
富士通研究所は、量子コンピュータの基本素子となる「量子ドット」を、世界で初めて、半導体基板上の任意の位置に作成する技術の開発に成功した、と発表した。この技術の詳細に関しては、7月29日より英国で開催される「第26回 半導体物理国際会議(26th International conference on the Physics of Semiconductors, ICPS2002)」において発表されてる。
量子コンピュータは、情報の基本単位となる「量子ビット」により演算などを行うコンピュータで、実現すれば、現在のコンピュータ数10億台分の処理を一度に実行できるという。同研究所の方式では、量子ビットは電子のスピンで表され、量子状態は重ね合わせができることから、高度な並列処理が可能となる。同研究所が今回試作したのは、GaAs基板上に2種類の大きさの量子ドットが整然と配列しているもので、大きい方の量子ドットの上下左右に小さい量子ドットが4つ配置され(1セル)、それが正方形状に4セル作成されたもの。1セルには電子が1つ配置されており、1量子ビットを担っているので、今回試作したものは4量子ビットとなっている。この量子ドットでは、情報の保持のほか、演算なども行われるので、現在のコンピュータの概念でいえば、メモリと演算器を兼ねている、ということができる。
今回、同研究所が開発したのは、従来の「MBE成長法」と呼ばれる量子ドットの作成法に、原子間力顕微鏡(AFM)を使った凹部形成の前処理を組み合わせた手法。MBE成長法のみでは、基板上の所定の位置に作成するのが困難であったが、ナノメートルオーダーで位置の制御が可能なAFMで基板上にパルス電圧を加え、形成された酸化物ドットをエッチングなどで除去すると凹部が生成され、その後MBE装置で量子ドットを成長させれば、成長時間を制御することにより凹部のみに量子ドットを形成することができる。この技術を使えば、最小で20ナノメートル程度の量子ドットを形成することが可能で、AFMに印加するパルス電圧と時間幅を制御することで、形成させる量子ドットの大きさも変えることができる。量子コンピュータの実現にはまだまだ研究が必要とのことだが、半導体基板上に量子ドットが作成できたというのは、実現への大きな1歩といえる。同研究所は、今後、この構造を用いて、量子演算の実証などを行っていく予定だ。
加えてIBMは、同社のアルマデン研究所において、新型の量子コンピュータを開発したと発表した。同コンピュータを利用することによって、従来では多くの計算サイクルを繰り返さなくてはならなかった問題でも、1ステップの計算で解けることを実証したという。量子コンピュータとは、現行のコンピュータが電気の流れの状態を信号としているのに対し、量子のエネルギーの状態を信号として計算するコンピュータ。量子力学の理論を応用して作られており、複数の計算を一気にこなすことができるという特徴を持つ。これにより、現行の電気回路を元としたコンピュータでは複数ステップかかる計算を、1ステップで実行できるため、圧倒的な計算量を得ることが可能となる。
量子コンピュータもその1つ。
1970年代には、理論的可能性が示唆されていたものの、大幅な研究の進展は1990年代に入ってから。同社は、1998年に世界初の量子コンピュータを実現するなど、研究の流れに大きな役割を果たしている。同コンピュータは、あくまでも研究段階。開発チーム代表のChuang氏によれば、「現行の技術が限界を迎える2020年からの技術」ということだ。製品化には、まだまだ遠いものの、DNAコンピュータなどとともに、次世代コンピューティングの有力な候補の一つとして、動向を注目したい。
実はこれはオレの研究分野と同質の半導体を使っているのだが。オレの研究もちょっとは役にたっているのかなぁ…。