Nikonが発売する新しいノクトニッコールはF0.95です。
ものすごいレンズです。受注生産で125万円を超えています。
レンズ構成は10群17枚で低分散EDレンズを4枚、非球面レンズを3枚含みます。非球面レンズはガラスモールドではなく研削タイプです。更にナノクリスタルコートやアルネオコートなどの最新薄膜技術でゴーストやフレアを抑制しているそうです。
恐らく収差という収差が補正されていて、完璧な像が得られるのではないかと思います。『Noct』の名に因んでいるので夜景撮影での点光源が流れず奇麗に撮れるのでしょう。
LeicaのNoctiluxが似たような変遷を経ていて、1970年代の手磨き非球面のF1.2設計、1980~2000年代のMandler氏のF1.0設計、更に現在の非球面のF0.95がありました。素晴らしい進化は誰もが認めるところですが、あまのじゃくなワタクシは古き時代のレンズが好きだったりします。
何と言うか・・・最新の技術で完全に収差補正したレンズは水で言えば無味無臭なH20で、収差はあるものの意図的に補正されているレンズはミネラルを含んだ湧き水のような違いがあると思うのです。球面収差が良好に補正されていて、サジタルコマ収差も補正されているけど、周辺光量比が低いとか像面湾曲が画像周辺に多少あるとかでも特徴のある(クセとも言いますが)画像のレンズが好きです。
この1980年代のレンズ、ニコンの記事があるのですが、以下のような設計思想の記述があります。
ところで、非球面は用途によって2つのタイプに分類することができる。1つは以前お話したOP-Fisheyeのように歪曲収差をコントロールする非球面、そしてもう一つは今回のノクトのように球面収差やコマ収差をコントロールする非球面である。実は、球面収差やコマ収差を補正する非球面は、前者の歪曲収差をコントロールする非球面に比べると要求精度が桁違いにきびしいのだ。そこで、ノクトニッコールでは研磨による非球面製作法が採られることになった。研磨による非球面製作は、反射型天体望遠鏡の非球面鏡の作成などに用いられている技術で、高精度に非球面の製作ができる反面、その製作には熟練した研磨技能者の技が必要で、数量、コストの面では大変なものであった。
加えて精度の厳しいレンズには精度の高い検査が必要である。ノクトニッコールでは、非球面レンズ単体での面形状の測定はもちろんのこと、組み立て後のレンズについて、通常の解像力試験に加えて、専用の検査装置を使って収差の測定を行い、製品のフレアの管理を行っていたという。一見するとAI Nikkor 50mm F1.2Sと変わらないレンズなのに、なぜ値段が3倍もしたのか、おわかりいただけたのではないだろうか?それだけ製造から検査にいたるまで手間をかけたレンズだったのである。
歪曲収差を補正する非球面は中心への影響が少なく、端の画角を補正します。歪曲収差を補正をするのに効果的なレンズ面での非球面は光束がバラけているので周辺画角の補正をする際に中心画角への影響が少ないです。対して球面収差やコマ収差を補正する非球面は、中心画角の光束と周辺画角の光束が重なっている場所が効果的なので、中心画角の球面収差補正が周辺画角のコマ収差に影響を及ぼします。よって製造が少しでも設計値から外れるとこの非球面は性能が出ない訳ですね。
また、通常の解像度試験だけではなく、開発では写真の『見え』が良くなるような官能評価をしたり、量産で収差の収差の測定を行って管理していたり、なかなか手の凝った製造である事は間違いありません。
そんな初代Noct Nikkor 58mm F1.2のレンズのflickrページもあります。
いつか手に入れてやる。